美術家  小林正樹
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スタジオの神棚

鞴祭 (ふいごまつり)・ 金工の神様のこと

 

 鍛冶屋さんや鋳物屋さんの仕事場には大概、神棚があります。

そして毎年11月8日には「鞴祭」(吹子祭り)をやります。

[地域や時代によって旧暦11月8日、12月8日、11月初子の日、2月の初午の日、4月8日(お釈迦様の日「オシャカになった」は鋳物師の言葉・※1)等…]

 

 

 鞴(ふいご)とは、火をおこす為の送風の道具で、高温な火力が必要とされる金属の精錬や加工など金属に携わる職人には無くてはならぬ大事なものです。

昔は手動や足踏みでしたが、現代では電動のコンプレッサーやブロアー(送風機)がその役割を担っています。

 

 かつて鞴(ふいご)は庶民の生活のなかでも身近なものであったようです。
城下町には鍛冶屋集落の名残である「鍛冶町」などの町名や小路名が今でも多く残っていますし、また
農村にとって農耕具の調整、修理に鞴を使う鍛冶屋の仕事は欠かせませんでした。貴重でめったに買い替えることのできなかった鍋や釜を修理する鋳掛屋は鞴などの道具一式を持ち歩き、村や町中を移動しながら商売をしていました。

 

 その鞴を使う職人達が、鞴祭の日は一日仕事をせず、鞴や金床をよく清めて注連縄を張りお供え物をしました。

お神酒、赤飯、尾頭付き(海の幸)、野菜(山の幸)、米、塩、…

みかんは三角に山積みに。みかんは火の玉を表したもの。みかんを食べると火傷をしない。風邪薬でもある。金山様は風を起こす神様なので風邪やはしかにきくからだとも。夕方から門前で餅やミカンをまいて近所の子どもにふるまいました。<※2>

また同業者で集まることで、価格の協定を行ったりも。

 

 鍛冶屋やタタラ師(砂鉄でタタラ製鉄する技術者)、鋳物師など金属関係者の信仰する神は大きく三種、「荒神」「稲荷神」「金屋子神」だそうです。

地域により異なり「荒神」は東北や九州、「稲荷神」は中央日本、「金屋子神」は中国地方を中心に東北、関東、北九州となっているそうです。

母校芸大鍛金は稲荷神だったと思います。
地域によっては金屋子神が狐に乗っているという伝承もあるそうですので、それぞれの結びつきは深いようです。

 

 

<※1>
「オシャカになった」= 駄目になった! 品物が不良品だ!
鋳造で火が強すぎて失敗した。
火が強かった→しがつよかった→しがつようか→四月八日(お釈迦様の日)

<※2>

江戸では鞴祭が盛んでみかんの需要も相当なものだったそうです。紀伊国屋文左衛門という商人が嵐のなか紀州(和歌山県)から江戸に船でミカンを運び、大きな利益を得たと言われてます。 

 

 

 

東京芸大工芸科鍛金鞴祭

2006年参列した時の写真

 

上段宮形の下、四角い箱が箱鞴です。
中段中央にあるのが銅製のご神体。
燭台(鉄鍛造)、榊立・ご神体(ヘラ絞り)は、鍛金手仕事製ですね。

 

 

金属を扱っている端くれの私のスタジオにも、小さいささやかな神棚があります。以前、東京墨田区にいたときは近所の亀戸香取神社の「荒神様」を奉っていましたが、横浜に移ってからは川崎の金山神社に参ることにしています。

こちらの神様は、金屋子神と一神とも言われている金山比古神(カナヤマヒコノカミ)と金山比売神(カナヤマヒメノカミ)の二柱を祭神として祀っています。

 

金屋子神」は、鉄の神・火の神ともいわれ金屋子以外にも金屋、金井、金谷、金山、金山彦などとも呼ばれ、神社や地名として現在でも日本中に残っています。

かつての川越では、箪笥の金具屋・野鍛冶・鋸屋が集まって金山神社を作っていたそうですし、所沢市にも金山町に金山神社、東村山市廻田町には金山通り、金山神社があります。鋳物の町、埼玉県川口市金山町の川口神社(金山社を合祀)は金山彦命も祀り、鋳鉄天明釜で有名な佐野市金井上町にも金山神社(カナガミ様)が祀られています。

三浦半島と房総を繋ぐフェリー港で鋸山登山口の金谷も製鉄関連からくる地名のようです。こちらには720年創建の金山彦を主祭神とする金谷神社があります。

金谷神社(千葉県富津市金谷) 

 

 金屋子神社本社は島根県安来市(古来は出雲のタタラ製鉄、現在は日本が世界に誇るブランド、日立金属ヤスキハガネで有名!)にあり、祭神は金山毘古(古事記名。日本書紀では金山彦神)・金山毘売(古事記名。日本書紀では金山姫神)の二柱です。
金屋子神社・安来市観光協会公式サイト

 

 

 

(参考文献)
・「鐵の道を往く」鉄の道文化圏推進協議会編

・  埼玉県民俗工芸調査報告書〈第3集〉埼玉の鍛冶

・  金谷神社大鏡鉄の由来について/井上孝夫著

   (千葉大学教育学部研究紀要第47巻 Ⅱ:人文社会科学編)

 

 

 

 

 

昨年のうちのスタジオでのささやかな鞴祀。
猫の額ほど庭しかないので本榊は鉢植えで育てています。

 

 

川崎市 金山神社

 

鞴祭の季節に合わせて先日、お札を頂きに川崎の金山神社まで行って参りました。川崎大師駅近くの若宮八幡宮境内に合祀されています。

建物上部のマークは神紋なのでしょうか、鎌、矛、曲尺です。

 

詳しい歴史は分かりませんが、江戸時代には既にあったようです。

現在は現代的な建物になり中には鍛冶場が再現されています。

 

内部の写真(外部リンク wikipedia kanayama-shrine-inside.jpg)

 

 

若宮八幡宮の社務所で古いお札を出したら季節柄なのか、何も申し上げなくても新しいお札をこの「鞴祭」と書かれた袋に入れて「ご苦労様です」と出して下さいました。

その道の職人さんになったみたいでチョット嬉しいです笑                          

京浜工業地帯の金属加工業や製鉄会社の方々が、沢山訪れるようです。

川崎市かわさき区宝物シート ふいご(近藤鉄工所)

 

金山神社のもう一つの顔「かなまら様」金勢神信仰

 

(ここからは、お子ちゃまはダメよ!)

 

金床の上に「かなまら様」
奥の張り紙に、ここに絵馬を掛けないで下さいとあります。

 

「かな」は金属のこと、「まら」は男性の性器を言います。したがって「かなまら様」とは金属の男根を祀った神様です。いわゆる「金勢様」です。(芸大鍛金の鞴祭祭壇にも登場しています)

 

ー 金山神社は古くは金山権現社として鍛冶屋の守護神だったが、俗称「かなまら様」とも呼ばれ、境内の各所には大きな男性のシンボルが鎮座する。子孫繁栄、夫婦円満、安産、性病除けなど、性神として広く信仰を集め、近年ではエイズ除けとしても有名。ー

[ 川崎市かわさき区の宝物シート金山神社郷土資料室より ]

 

 ー 元々金山神社は鍛冶の神様を祀る神社であったが、江戸時代に川崎宿の飯盛女(遊女)たちの病除けに端を発し、かなまら祭りが行われるようになったという。春になると草木が芽を出して再生することから、自分たちの体の再生を願って飯盛女たちが地面にゴザを敷いて下半身の病除けを祈願した。ー
 
 

 

境内あちこちに、かなまら様が…

 

 

ご立派すぎる…

 

若宮八幡のあるこの辺りはかつて森だった時代も。しかしその後戦災によって社殿が消失し資料や記録も失われ、現在の社殿は京浜急行の寄進により戦後再建されたものだそうです。

 

京浜急行電鉄 川崎大師駅

 

金山神社の最寄り駅、京浜急行「川崎大師駅」。

いまとなっては長閑な支線ですが、

なんと京浜急行電鉄、発祥の地だそうです。

かつての名は大師電気鉄道。
明治32年(1899年)1月21日、

六郷橋-大師(現在の川崎大師)間1.8kmを開業。

関東地方で初の電車は、川崎大師にお参りするためのものだったのですね。

(日本最古は京都市電)

当時の競合相手、人力車組合の反対で川崎駅(現在の京浜川崎駅)に乗り入れ出来ずこの区間になったらしいです。

 

 

 

 

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